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南アルプス市のジャズ喫茶より日々の出来事を。

by ex-saporterK

そういう視点。

夜のヨガのクラスで身体を解している時に、オペラ話。先生が通っているシェイクスピア講義の男性教授とオペラ好きの共通項から出た話題。
ドン・ジョヴァンニが「いやらしい女ったらし」なのか「博愛主義者」なのかという問題で、先生は「同じようなことを他の女性にも言っているんだと思ったら、いやらしい!」と拒否反応を示したそう。しかし教授は「いやらしさと、博愛主義の、その中間点にいるのがドン・ジョヴァンニ」と仰ったそうだ。

男性と女性の視点の違いを感じるエピソード。その気のない男からでも、褒められ愛を囁かれるのは女として悪い気はしない。でもそれが誰彼かまわずとなると話は違う。いくら美男子でも、言った次の瞬間には他に向けられる、彼にしてみれば「誠意の褒め言葉」など投げかけられても、良い気分になるのは一瞬、しかもその一瞬を感じた自分に腹立たしくなるのは一生。私もジョヴァンニはカサノヴァとどこが違うんだ、くらいに思える。ドン・ジョヴァンニを博愛主義と思えないのは、私の性格なのか、女性一般の考えなのか、年代差なのか、国民性なのか。

面白かったのは、お能でもオペラでも歌舞伎でも何でも書かれることは人間の本質なので、観ていると、先生曰く「人間は同じことを何千年も繰り返して、未だに同じことで悩んだり苦しんでいる」し「しまったと思った時にはすでに遅かった、ということも繰り返している」こと。お能でも「安達原」の鬼女が「見てはいけない」と言った奥の部屋を盗み見て追いかけられるし、昔話の「鶴の恩返し」だって同じである。人は「やってはいけない」と言われるとやりたくなる。この禁止やタブーを敢えて破る誘惑の、何と甘いことだろうか。そして甘い蜜を味わった途端に訪れる、払うべく代償の何と大きく深いことか。

と、わかっちゃいるけどやめられないのもまた、人間なのだろうなぁ。ということなどを考えさせられる点でも、お能もオペラも同じであるから好き。そういうことを考えずに疑似体験できる点でも、やはり好き。「お前の愛なしには、私は死んでしまう!」なんて、オペラの登場人物くらいにしか言ってもらえないし、そんなセリフ言えるのもまた、オペラの中だけ(っていうかそこだけにしてほしい)。でも聴くとうっとり。散々うっとりした後で「あぁんな女ったらしなんて!」と毒づいたって構わない。人気ドラマの放送翌日の学校みたいに「ねぇねぇ昨日のドラマ見た?」みたいな感覚で、お能やオペラの批評をしたっていいのだ。
by saporterK | 2008-12-16 00:36